うそみたいに春みたいな夜

好きだった女の子が結婚するそうだ。画像の子ではない。おめでとう。昔その子の出てるAVをDMMでダウンロードした。繰り返すが画像の子ではない。噂だけを頼りに何100ページもクリックした。噂は本当だった。男優がチャラくて実用性に欠けた。 僕も彼女も32歳だが、映像の中で彼女は永遠に22歳だった。そりゃあ好きだったので、何回も飲みに誘った。だいたいメールの返事はなかったが、たまーに深夜11時とかそういう時間帯に彼女の最寄り駅に呼び出されたり、きまぐれーに応えてくれたりした。彼女はいつもきちんと帰っていった。タクシー代が惜しくて一時間くらい歩いて帰った。自分は何番目の男なんだろう、みたいに思いながら、悔しいとかその類の感情に耐性がつきはじめてきた頃、夜とアルコールが深まると、彼女は飲みの席に庵野秀明と江川達也とリクームを足したような彼氏を呼び出した。激しく困惑したが、納豆とトロロとイカとマグロを小鉢にごっちゃにした小鉢でビールがうまい。「家に来る?」と男は余裕10000%くらいだった。好きな子が同棲してる家。2DKだか2LDKだかあって、間接照明とかセルフポートレートとかヌードの絵が壁に貼ってるそーいう類で、彼女がエプロンつけてキッチンに立ち、サンマだかイワシだかその類をテキパキと焼いて大根おろしとポッカレモンを添えた。無力だった。でも彼とチェルフィッチュとかポツドールとかの劇団の話、新井英樹や伊藤計劃や新劇ヱヴァの話、真三国無双はやっぱり2をやりこんだよね、など。やけに話が合った。そりゃ同じ女好きなんだもんな。詳しくないけどガンダムの話知ったかぶった。無力だった。それでも、男と男が仲良くなるのはきっと男と女が仲良くなるより簡単だきっと。戦う勇気も競うプライドもなかった。酒を煽るしかできず、最初に酔い潰れた自分は、やっぱ最初に起きる。居間で雑魚寝してた自分は寝室のふすまが空いてたので、ついつい裸の二人を見てしまった。興奮よりも胃の痛みが先に来た。彼女たちはライオンがサバンナを歩くように自然にやることをやってたのだろう、彼女が目覚めそうだったので咄嗟に寝たふりをした。クリームパン食べる?と冷蔵庫の上にあったヤマザキパンをもらった。一口目では黄色いクリームにたどり着けず、パサパサのパンは石油みたいな味がした。男も起きた。裸も隠さない彼は魔王みたいだった。 また来なよ。いてつく波動に捨て台詞も言えず、自分にできたのはその屈強な肉体をヘラヘラしながら写真に撮ることくらいだった。帰れ、そんな雰囲気がリビングを支配した。またね、そう言いながら 玄関先にあった合鍵をポケットに突っ込んだ。環七をただただ練馬方面に歩いた。何号室だったか忘れて襲撃はできなかった。彼女が結婚するのは、この彼氏じゃなかった。